少子高齢化が進む日本では、子育て世代への支援強化が急務となっています。仕事と育児の両立を支える制度の充実は、政府の重要な政策の1つとして段階的に進められており、2025年は4月と10月に大きな改正が予定されています。この記事では、その中でも育児休業給付金制度に焦点を当て、新たに創設される「出生後休業支援給付金」「育児時短就業給付金」と、「育児休業給付金延長時の審査厳格化」という3つのポイントについて、社労士の視点から分かりやすく解説します。


育児休業等給付の概要

育児休業等給付とは、子の年齢や養育状況に応じて、要件を満たす場合に支給される給付金です。
これまでは通常の育児休業給付金と、産後パパ育休を取得した際に支給される出生時育児休業給付金の2つでしたが、令和7年(2025年)4月1日からは新たに出生後休業支援給付金と育児時短就業給付金が創設されました。

出典:『育児休業等給付について』厚生労働省

出生後休業支援給付金の創設

「出生後休業支援給付金」は、子どもの出生直後の期間における父親の育児参加を促進することを目的としています。2022年10月から産後パパ育休(出生時育児休業)が創設され、男性の育児休業取得率は年々上昇しているものの、依然として女性に比べると低い状況にあります。その要因の一つに、「収入減少の不安」がありました。出生後休業支援給付金を創設し、経済的支援を行うことで、安心して育休を取得できる仕組みを作り、「共働き・共育て」を推進することが狙いです。

1. 給付の対象と条件

出生後育児休業支援給付金は、父母両方が育休を14日以上取得した場合に通常の育児休業給付金に加えて、28日間支給される給付金です。具体的には以下2点の要件です。

  1. 被保険者が対象期間に同一の子について、出生時育児休業給付金が支給される産後パパ育休または育児休業給付金が支給される育児休業を通算して14日以上取得 したこ と
  2. 被保険者の配偶者が「子の出生日または出産予定日のうち早い日 」から「子の出生日または出産予定日のうち遅い日から起算して8週間を経過する日の翌日」までの期間に通算 して 14日以上の育児休業を取得したこと

⇒ ただし、子の出生日の翌日において、次のいずれかに該当する場合は、配偶者の育児休業を必要としません。
  ・配偶者がいない
  ・配偶者が被保険者の子と法律上の親子関係がない
  ・被保険者が配偶者から暴力を受け別居中
  ・配偶者が無業者
  ・配偶者が自営業者やフリーランスなど雇用される労働者でない
  ・配偶者が産後休業中
  ・上記以外の理由で配偶者が育児休業をすることができない

2. 支給される金額

給付率は13%で、育児休業給付金67%と合わせると給付率80%となり、実質手取り10割になるという仕組みです。

出典:『2025年4月から「出生後休業支援給付金 」を創設します』厚生労働省

3. 企業で準備が必要なこと

企業は、出生後休業支援給付金制度について、従業員への周知と申請手続きに必要な書類の案内を行う必要があります。申請時には、通常の育児休業給付金の手続きに加えて、以下の書類の準備が求められます。

  • 配偶者の被保険者番号(配偶者が14日以上の育児休業を取得する場合)
  • 配偶者の育児休業開始年月日(配偶者が雇用保険の被保険者ではない公務員で、14日以上の育児休業を取得する場合)
  • 「配偶者の育児休業を要件としない場合」に該当することを確認できる書類

※必要な書類の詳細は、厚生労働省パンフレット『育児休業等給付の内容と支給申請手続』のP15・P20で確認できます。

育児時短就業給付金の創設

「育児時短就業給付金」は、育児中の労働者が柔軟な働き方を選択できるよう支援するために新設された制度です。従来の育児休業給付金は、原則として「完全に休業する」ことを前提としており、「育児と仕事を両立したい」というニーズには十分に対応できていませんでした。育児時短就業給付金の創設によって、育児休業後も短時間勤務を選択しやすくなり、働き方の選択肢が広がりました。短時間勤務を選択肢た労働者に賃金の減少分を補填することで、育児とキャリア形成の両立を後押しすることを目指しています。

1. 給付の対象と条件

育児時短就業給付金は、2歳未満の子を養育するために短時間勤務をした結果、賃金が減少した場合に支給される給付金です。具体的には以下2点の要件です。

  1. 2歳未満の子を養育するために、育児時短就業する雇用保険の被保険者であること
  2. 育児休業給付の対象となる育児休業から引き続いて、育児時短就業を開始したこと、
    または、育児時短就業開始日前2年間に、被保険者期間が12か月あること

※ただし、2025年4月1日以前からら2歳未満の子を養育するために短時間勤務をしている者は、2025年4月1日から育児時短就業を開始したものとみなして、要件が確認されます。

加えて、次の要件をすべて満たす月について支給がされます。

  • 初日から末日まで続けて、雇用保険の被保険者である月
  • 1週間あたりの所定労働時間を短縮して就業した期間がある月
  • 初日から末日まで続けて、育児休業給付又は介護休業給付を受給していない月
  • 高年齢雇用継続給付の受給対象となっていない月

2. 支給される金額・期間

給付率は育児時短就業中に支払われた賃金の10%相当額ですが、短時間勤務前の賃金水準を超えないよう調整がかかります。

出典:『令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について』P17』厚生労働省

支給される期間は、短時間勤務を開始した月から短時間勤務を終了した月までで、2ヶ月ごとに支給されます。

出典:『2025年4月から「育児時短就業給付金 」を創設します』厚生労働省

⇒ ただし、以下に該当する場合は、該当日の前日が属する月までが支給対象機関となります。
  ・育児時短就業に係る子が2歳に達した場合
  ・産前産後休業、育児休業または介護休業を開始した場合
  ・育児時短就業に係る子とは別の子を養育するために、育児時短就業を開始した場合
  ・子の死亡その他の事由により、子を養育しないこととなった場合

3. 企業で準備が必要なこと

企業は、育児時短就業給付金制度について、従業員への周知と申請手続きに必要な書類の案内を行う必要があります。まずは、2025年4月1日時点での対象者を把握し、手続書類を案内しましょう。 また、今後育休から復帰する従業員に対してもスムーズに案内できるよう、事前にフローを整理しておくことが望ましいです。

初回の申請時には、以下の書類の準備が求められます。

  • 育児の事実、出産予定日及び出生日を確認できる書類(母子健康手帳・医師の診断書・住民票など)
  • 育児時短就業を開始した日、賃金の額と支払状況、週所定労働時間を確認できる書類(賃金台帳・出勤簿・労働条件通知書・育児短時間勤務申出書・取扱通知書・就業規則など)
    ⇒難しい場合は、育児時短就業期間等に係る証明書を作成していただくことでも対応可能

※必要な書類の詳細は、厚生労働省パンフレット『育児時短就業給付の内容と支給申請手続』のP8・P9で確認できます。

育児休業給付金延長時の審査厳格化

育児休業給付金は、子が1歳に達するまでの育児休業中に支給されますが、保育所へ入所ができないなど、特定の条件下では最長2歳まで延長が認められています。しかし、近年、職場復帰の意図がないにもかかわらず、意図的に入所倍率の高い保育所や遠方の保育所に申し込むことで、落選を狙い、給付金の延長を受けるケースが増加していると指摘されています。

このような申請は制度趣旨に合わず、自治体の入所審査業務の負担も増加させ、本当に保育所を必要とする家庭の入所機会を奪う可能性があります。そこで、2025年4月からは育児休業給付金の延長申請を厳格化し、申請者が「速やかな職場復帰を前提に保育所等の申し込みを行った」ことを明確にする仕組みが導入されます。

1. 育児休業給付金延長の条件

以下3点すべての要件を満たすことが必要です。

  1. 子の1歳の誕生日の前日までに市区町村へ保育利用の申し込みを行っていること
  2. 子の1歳の誕生日の時点で保育所等の利用ができる見込みがないこと
  3. 速やかな職場復帰のために保育所等における保育の利用を希望しているものであると認める3つの要件をすべて満たすこと
    ☑申し込んだ保育所等が、合理的な理由なく自宅から通所に片道30分以上要する施設のみとなっていないこと
    ☑市区町村に対する保育利用の申し込みに当たり、入所保留となることを希望する旨の意思表示をしていないこと
    ☑子の1歳の誕生日以前の日を入所希望日として入所申し込みをしていること

2. 必要な書類

2025年4月より、これまでの確認に加え、さらに2点の書類が延長時の「育児休業給付金支給申請書」に添付が必要となります。

出典:『2025年4月から 保育所等に入れなかったことを理由とする 育児休業給付金の支給対象期間延長手続きが変わります』厚生労働省

3. 企業で準備が必要なこと

企業は、従業員の育児休業延長申請に際し、必要書類の準備や行政との連携を円滑に進める体制を整えることが重要です。従業員側も延長申請を見据え、早めに保育所の入所準備を進め、複数の選択肢を検討しておくことが賢明です。

特に、入所申込書の写しは、従業員自身が事前にコピーを取る必要があるので、忘れないよう徹底して案内してください。また、添付書類3点が揃わない場合、育児休業の延長は一切認められないため、今後産休に入る従業員にも厳格に周知する必要があります。

※延長申請の詳細は、厚生労働省パンフレット『育児休業給付金の支給対象期間延長手続き』で確認できます。

育児と仕事の両立を支援する、働きやすい職場づくりをサポートします

2025年4月の育児休業給付金制度改正は、多様な働き方を支援し、子育て世代の負担軽減を図る重要な一歩です。出生後休業支援給付金と育児時短就業給付金の創設により、より柔軟な働き方が可能になります。一方、給付延長の審査厳格化により、制度の適正な利用が求められます。

企業は、制度改正に適切に対応することで、従業員の働きやすさを高め、人材確保・定着につなげられるチャンスでもあります。そのためにも、従業員への周知や制度利用のサポートを行い、スムーズな運用を確保することが求められるでしょう。

うちやま社会保険労務士事務所では、企業のニーズに寄り添いながら、法令遵守と実効性のある制度構築のサポートを提供しています。育児関連制度の導入・運用に関するアドバイスや就業規則の整備、育児休業中・復帰後の働き方・社内企画に関するご相談まで幅広く対応可能です。貴社の実態に即した対応策を一緒に考えてまいりますので、制度改正への対応でお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。